草津アカデミーでは、毎年テーマを決め、そのテーマに沿って学習し、コンサートのプログラムを構成しています。
第44回(2024年)のテーマ:モーツァルトー愛され続ける天才
人々が喜びを感じたのがハイドン。畏敬と尊敬の念を持って讃えられたのがベートーヴェン。愛され続けたのがモーツァルト。これは、古典派の3人の偉大な巨匠に対する同時代およびその後の世代の印象を簡潔かつ的確に表現していると言えるでしょう。
モーツァルトに対するこの愛はどのように表れたのでしょうか?特に音楽的、芸術的な面でいうと、人々は彼の作品を演奏したり、彼の音楽を聴こうとしていました。現在ではそのための方法は数多くありますが、当時は人々が聴きたいものは演奏をしなければなりませんでした。だからこそ、彼の音楽は他のどの作曲家よりも多様なアンサンブル編成に編曲され、あらゆる場面で様々な方法で演奏し、聴くことができるようになっているのです。また、珍しい例になりますが、オペラ『魔笛』の最も重要な部分がミサ曲に編曲されました。我々はこの作品が比類のないものであると考えており、この音楽で神を賛美しているのです。この貴重なミサ曲を8月25日に草津で取り上げます。
人々はモーツァルトの音楽を愛し、そして、だからこそ彼の音楽をお手本としました。それは真似するということではなく、彼のお手本に倣い、たとえ彼に追いつくことはできないとわかっていたとしても、できる限り良いものをと試行錯誤することでした。フランツ・クサヴァー・ジュスマイヤーが、モーツァルトと同じテキストを使って1年後に作曲した「アヴェ・ヴェルム・コルプス」がその一例です。
人々はモーツァルトの芸術を愛し、そして、芸術家であり人間であるモーツァルトを深く愛し尊敬しました。これは、他の作曲家がモーツァルトを偲び、あるいはモーツァルトへのオマージュとして作曲した作品にはっきりと表れていました。これらの作品はモーツァルトの死後に書かれ、彼への音楽的な記念碑となり、今年の音楽祭で沢山取り上げます。
話は音楽から逸脱しますが、モーツァルトへの愛とその愛からくる深い尊敬の念は、草津での音楽祭では表現できない形でも残されています。それは、記念碑で、1つ目はモーツァルト愛好家によってモーツァルトの死後10年も経たないうちにモーツァルトが一度も訪問したことのなかったオーストリアの都市グラーツに建てられ、2つ目は一緒に演奏したこともあるモーツァルトの個人的な友人によって、北イタリアの都市ロヴェレートに建てられました。モーツァルトに対する深い敬意は、メダルや胸像のように、他の有形芸術にも表れていました。モーツァルトの思い出に捧げられた作品でモーツァルトへの愛が示されたのと同じように、モーツァルトへの愛を表現した詩などの文学作品も同じ目的で創作されました。
モーツァルトの活動と彼の芸術は、後世の想像力にも影響を与えました。愛と深い尊敬が商業になったのです。モーツァルト伝説、小説、舞台作品、そしてついには映画も制作されました。 このように彼への愛と尊敬がもたらした後世への影響は絶大であり、その中で今年の草津の音楽祭では、モーツァルト自身を知る人々がまだ多く生きていた時代の作品に焦点をあてプログラムを組むことにしました。
この夏は涼しい高原気候の草津で「愛され続けるモーツァルト」の世界を2週間たっぷりお楽しみください。
これまでのテーマのご紹介
第1回(1980年):ヨハン・セバスティアン・バッハの音楽
第2回(1981年):ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの音楽
第3回(1982年):ブラームスとバッハの音楽
第4回(1983年):シューベルトの音楽
第5回(1984年):フランツ・ヨゼフ・ハイドンの音楽
第6回(1985年):J.S.バッハと息子たち
第7回(1986年):R.シューマンの音楽
第8回(1987年):モーツァルトとマンハイム楽派の音楽
第9回(1988年):フランス音楽(ベルリオーズ、ドビュッシー、ラヴェル)
第10回(1989年):ベートーヴェンの音楽
第11回(1990年):1790年をめぐって―古典派からロマン派へ
第12回(1991年):1830年―ロマン派音楽の胎動
第13回(1992年):1750年―バロックからクラシックへ
第14回(1993年):二つの世紀末
第15回(1994年):シューベルトとその時代
第16回(1995年):ウィーン古典派への道 モーツァルト・ハイドン
第17回(1996年):ワーグナーとブラームスの時代
第18回(1997年):バッハと現代
第19回(1998年):ベート―ヴェンの時代
第20回(1999年):古典と現代
第21回(2000年):バッハとロマン派音楽
第22回(2001年):モーツァルトの旅
第23回(2002年):音楽都市パリとウィーン
第24回(2003年):ロマン主義の流れ
第25回(2004年):バッハからベートーヴェンへ
第26回(2005年):ドイツの都市と音楽
第27回(2006年):モーツァルトと18世紀
第28回(2007年):ベートーヴェンからブラームスへ
第29回(2008年):18世紀の音楽 バロックからクラシックへ
第30回(2009年):1809年 ハイドン没後・メンデルスゾーン生誕200年
第31回(2010年):シューマン、ショパンとビーダーマイヤーの時代
第32回(2011年): 「未来の王国に」フランツ・リストとロマン主義音楽
第33回(2012年):生誕150周年 C.ドビュッシーとW.A.モーツァルト
第34回(2013年):リヒャルト・ワーグナー生誕200年~わたしはどこから来たのか~
第35回(2014年):リヒャルト・シュトラウス生誕150周年~ミュンヒェン、ウィーン、ドレスデン
第36回(2015年):1815年ウィーン、ビーダーマイヤー時代、1915年ドビュッシーと20世紀の音楽
第37回(2016年):イタリアから、イタリアへ
第38回(2017年):モーツァルトの奇蹟
第39回(2018年):自然が創造する音楽
第40回(2019年):バッハからシューベルトへ
第41回(2021年):ベートーヴェンから現代へ
第42回(2022年):ロッシーニ生誕230年~その時代のヨーロッパ
第43回(2023年):プラハとウィーン 二つの楽都ードヴォルジャークとブラームス