草津の夏の2週間、それは自分の中の音楽を見つめ直す時間
1980年の夏、豊田耕児、ヘルムート・ヴィンシャーマン、モーリス・ジャンドロン、ゴットフリート・ランゲンシュタイン、金昌国、クラウス・トゥルンプフ、遠山慶子、ヨーゼフ・グードマン、ヴァルデマール・デーリンクといった一流の演奏家が、世界中から草津温泉に集まりました。そこで行われたのは、日本の若手音楽家へのレッスン。彼らを師と仰ぎ、時に友として、語り合い、音楽の意味を問い直し、音楽と向き合う夏の時間は、40年を経た今も草津温泉で大切に守られています。
音楽は、創作と演奏、それに聴衆という三つの要素で成り立っています。演奏の技術を学ぶだけでは、音楽として完結せず、人前で音を出して初めて音楽が始まります。そのためには、聴いてくださるお客様の参加が重要。草津では、演奏会も学びの場のひとつです。
わたしたちは、創作もまた、大きな柱として考えています。初期の第2回(1981年)より毎年一人の現代作曲家の作品を取り上げたコンサートを実施し、第30回(2009年)~第43回(2023年)までは日本を代表する作曲家 西村 朗氏を音楽監督に迎え、新しい曲の紹介に積極的に取り組んでまいりました。そして、草津のいたるところで音楽が鳴っているこの2週間はまた、作曲家にも大きなインスピレーションを与え、新たな創造が始まります。
強酸性の硫黄泉、豊富な湯量で天下の名湯と名高い草津温泉。この豊かな湯の恵は、草津の地の自然からの贈り物です。海抜1200メートルのこの地は、北と西は草津白根山をはじめとする三国山脈の2000メートル級の山々に囲まれ、まさしく日本のチロル地方と呼ばれるにふさわしい高原リゾート地で、「日常から離れて自分の中の音楽を見つめ直す」というわたしたちの音楽祭の理念を実現するためには、草津でなければならなかったといえるでしょう。
こんこんと湧き出づる硫黄の香りのお湯につかり、あざやかな木々の緑の中で鳥のさえずりに耳を傾け、動物たちの気配や風のささやきを感じる。そんな草津での2週間は、すべての人に音楽と向き合う大切な時間をご用意しています。